人を育てる。強いチームを作る。(その1)
その昔、中学生のころバレーボールをしていた。当時は9人制だった。強いチームで、市の大会でも決勝にでていた。中学3年生の同級性が主体で、下級生のレギュラーはほとんどいなかった。指導の先生はおらず、生徒だけで練習していた。3年生は自分たちの練習をするだけで下級生を指導することはなかった。私たち3年生が卒業するとチームは弱小チームとなった。強いチームは後輩に何も残さなかった。
高校生でもバレーボールをやった。6人制だった。進学校だったので、部員は少なくレギュラーは3年生から1年生まで混在だった。数が少ないため固定メンバーだった。3年生が卒業すると新入生がレギュラーとなり、それなりにチームのレベルは保たれていたが、いかんせん数がすくないため優秀なメンバーが抜けると、チーム力はすぐ落ちてしまった。また指導者もおらず、ある程度のレベルを数少ないメンバーで保つことも難しかった。高校野球で強いチームは、良い指導者がいること、才能のある人材が多数いなければならない。高校野球では図抜けたピッチャーがいれば、トーナメントを勝ち抜くことも可能だが彼が抜ければそのチームはまた弱小となる運命である。
大学医学部でもバレーボールをやった。経験者は少なく大学で初めてバレーボールをするものも多かった。それはどの医学部でも同じだろうとおもう。このころやっとチームが強いというのは、ずっと強いチーム、自分たちがいなくなっても強い、というのがほんとうに強いチームだと理解した。そのため、自分たちだけでなく後輩もしっかり育てなければならないと理解した。伝統のあるチーム、常勝のチームとはそれができているチームである。
そのようなチームは、立派な指導者がチームを作る、すなわち高校生のチーム、あるいはプロのチームなどがそうだろう。医学部のチームにはまずそのような指導者はいない。部員が考えて練習しなければならないが、伝統のあるチーム、常勝のチームにはその練習方法、人の育て方ができているのである。長い年月で培われたもので、その練習方法により人が育ち、強いチームができるのである。
デジタルデバイドとAIデバイド
AI(人工知能)による画像診断が放射線科医にとって代わるかどうかは、放射線科医にとって大いに気になるところである。まあ、私のような年寄りには関係ないことかもしれないが・・・。
少し前までは、今後はAIによる診断で放射線診断医はいらなくなるといわれ、放射線科入局希望者が減少したようだ。しかし、最近ではAIを放射線科医が利用して、放射線科医の仕事の効率化、より精度の高い画像診断を行うことができる、放射線科医の働き方改革になるといわれるようになっている。
最新のJCRニュース(日本放射線科専門医会・医会ニュース)に「AI(人工知能)から見る放射線科医の未来」の特集があった。また医事新報No.4965 2019.6.22号に「AIの出現が放射線診断医の将来に及ぼす影響について」の質問に対して、東北大学高瀬圭先生のコメントがあった。前者の記事の中には「今後はAI対放射線科医という図式ではなく、AIを使う放射線科医と使わない放射線科医の格差が問題になりそうである」、後者では「AIの登場によりさらに高度化する画像診断を、名馬を操る騎手のごとくに使いこなす放射線診断医が求められます。AI+放射線科医でさらに強力な画像診断が展開される時代が到来しますが、反面、通り一遍のレポートを記載するだけの放射線科医やAIを使いこなせない放射線科医は成り立たなくなるでしょう」との記載があった。
これからの時代さらにITに強くないと生きていけなくなる・・・
パソコンが出始めたころデジタルディバイドという言葉が流行った。コンピュータを使えるか使えないかで差がついてしまうということである。最近はあまり話題にされることはないが、やはりあきらかにあると思う。ネットをうまく使いこなす若者と、ネットが使えずいらいらして切れる年寄りがいる。
放射線科のなかでも、読影端末を使いこなし、要領よく手早く読影する者と、手際が悪い、ショートカットがうまく使えない者ではあきらかに仕事量の差がでる。さっさと仕事を終えて帰宅するものと、端末がうまく使えず時間がかかってしまう者がいる。学会発表、論文書きでもそうである。パソコン、ネットをうまくつかえるかどうかで、差がついてしまう。大変な世の中だなと思う。
最近の優秀な放射線診断医
ラジエーションハウスを見ての感想(2)
ラジエーションハウスってなんだろうかと思っていた。最後のころやっとわかった。入り口の扉に「ラジエーションハウス」と書かれていた。ドラマの中の放射線科を「ラジエーションハウス」というのだと。一般の病院では、放射線科、放射線部あるいは画像診断部と書かれている。
ラジエーションハウスの副題は~放射線科からの診断レポート~だった。新聞の番組表ではラジエーションハウスしかでていなかった。ラジエーションハウスでは一般の人にはどんなドラマかわからないだろう。
NHKにドクターGという総合診療医の番組がある/あった?。番組が有名になり総合診療医の存在が一般の人々にも少しは知られるようになりドクターGですと言えば「ああ、あの何でも診断できる先生ですね」、となる。放射線科医もラジエーションハウスの医者です、で通用するようになればうれしいものだ。日本の放射線科、放射線部がラジエーションハウスと改名すればよいかもしれない(笑)。
NHKでもいつか、ラジエーションハウス、あるいは~放射線科の診断レポート~がとりあげられればいいなと思う。
ラジエーションハウスの感想(1)
ラジエーションハウスも最終回が終わりました。視聴率もよかったようです。私の周りでは小学生のような小さな子供が喜んで見ているという話を聞きました。放射線技師、医師の仕事に興味を持ってくれるとありがたいです。視聴率が良かったせいか来週特別編があるようです。
少し感想を書いてみたいと思います。
放射線診断医は画像の読影で忙しい。PACSで送られた画像をモニターで 読影するのが仕事であり、画像がどのような過程で作られているのを考えることが少ないように思います。
ラジエーションハウスは、画像を撮影したものが(患者さんの状態、痛みがどこにあるかなど知って)画像診断をするという設定でした。患者さんを直接をみて撮影し、直ちに画像診断を行う。患者さんの息止めの状態、動きによるアーチファクト、装置の不良による偽画像の有無、再撮影の必要性など判断しながら画像診断します。ドラマでは技師(本当は医師)の判断で追加検査や追加撮影がされていますが、現実には担当医と連絡なしには行うことはできません。
モニターの前に座って患者さんの実際の状態を知らないまま読影する画像診断医とはやはり違うように思います。しかし、読影する者が撮影するというのは、理想的かもしれませんが、膨大な検査を数少ない放射線科医で行うということは現実的にはあり得ない話です。では放射線技師が診断すれば、という話になりますが医学部6年間、解剖、生理学、病態、各科の疾患について勉強した医師と技師では診断力に大きな差があります。骨折や〇〇があるかないかについては技師でも問題ないとおもいますが・・・。
検査を放射線科医が行うものとして、いまや数少ない施設でしかありませんが、超音波検査(エコー検査)があります。超音波検査では直接患者さんと話をし、症状を聞き、カルテ、それまでのCTやMRI画像を参照して検査、診断します。これは、放射線科医以外の医師、さらに放射線技師、臨床検査技師にはまず無理なことです。
かつて胃透視や大腸注腸検査がそうでした。検査するものの腕により診断レベルが違います。技術そして知識の差がでます。今や胃透視は放射線技師に、超音波検査は臨床検査技師に任せる時代になってしまいました。スクリーニング検査はまかせるとして、精密検査での超音波検査(もちろんスクリーニング検査ができる腕が必要ですが)を 放射線科医が行わないのは非常に残念です。
また、かつてのMRI診断第一世代の先生方は自分でマシンを操り、撮像法について考え、画像の成り立ちを考え、診断に応用していました。 MRIのパラメータを自由に操ることができればなんとMRI診断も楽しいことになるでしょう。
さて、現在はどうでしょうか。画像の良し悪しはほとんど技師たよりです。MRIの撮影法、パラメータについても技師任せになっています。
画像診断医はトレーニング時代に放射線技師の仕事の現場を知っておく必要があります。患者さんの状態、撮影の上手下手で画像に違いがでること、撮影条件による画像の変化、造影剤の投与方法など、現場を知らねばなりません。
放射線診断医を志す若い先生方は、撮影現場に足を運び、技師さんとよいコミュニケーションをつくり、撮影の現場、画像成立の過程を知って欲しいとおもいます。
ラジエーションハウスはより良い画像診断医になる道を教えてくれたドラマだと思います。
放射線科に追い風が吹いている
放射線科に追い風が吹いている。
NHKの夜の番組で、人間ドックの話があった。
有吉のお金発見 突撃!カネオくん 「“忘れ物”にまつわるお金事情に迫る!」(2019-5-18)
人間ドックでは、胸部単純写真やCT.MRI,さらに胃透視画像など画像検査が多い。そのため、その施設では画像を専門にみる画像診断医がおりCTやMRIを毎日1万枚も読んでいると、画像診断医が紹介されれていた。AIで有名な放射線科医の慈恵医大中田典生先生が出演しており、今年からAIを使うことができるようになり、さらに読影精度があがるようになると話していた。
ここのところ、フジテレビの看板ドラマ月曜9時枠での「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」の視聴率もいいらしい。
放送局は忘れたが、「5月8日放送あいつ今何してる」のなかで「近藤サトさんの友人放射線診断医である佐々木真由美医師の仕事が紹介されていた。彼女の婚約者であった30代で亡くなった放射線科医は自分で自分のスキルス胃がんを診断したとのことだ。自分で自分の画像を診断するのは辛い。
等々、最近放射線診断医の話題をマスコミで見ることが多い気がする。
放射線科医は「影で仕事している」。私も若い時「最終責任は主治医だから、私たちがなんとレポートしても大丈夫だ。鑑別診断をいっぱい書いておけば問題ない」なんて、無責任な思いをしたこともあった。患者さんから見えないところで仕事して、役に立てば「私たちは縁の下の力持ち、Doctors' doctorなんだ」と自負し、誤診していても「主治医がちゃんと全体を考えないからだ」と言い訳を考える。表にでない、訴えられることのないinvisible doctorであることが幸せだと思っていた。
しかし、放射線科医としてのプライドはどうだろうか。一人の医師として、他科の医師達と同じ立場でプロフェッショナルとして仕事するには、やはり仕事に責任を持つ、責任を取るべきである。「画像診断は○○先生によるものです」といわれて画像診断の責任をとる、専門科受診と同じ扱いになるのが理想ではないだろうか。アメリカでは放射線診断医のレポートのない画像診断は裁判では負ける。画像診断医が裁判で訴えられることが多いと聞く(思っているほど多くはないようだが)。放射線科医が診療の前線に、目に見えるところにいる。これこそが、責任とプライドを持って仕事する医師としての姿ではないかと思う。Invisible doctorからGG (Ground glass:すりガラス) doctor、そしてVisible doctorになりたいものである。
はてなブログの中の放射線科医のブログ
ブログを始めることにして、いろいろ調べた結果、非常に簡単だと言われているはてなブログにすることにした。
確かに簡単に始めることができた。
そこで、「はてなサイト内」で放射線科医、画像診断医で検索しどのような記事があるのか興味があった。
二つのブログを見つけた。
(その1)
そういえば、放射線学会で闘病の講演を聞いた記憶があることを思い出した。
堂々と名前を名乗り、自分の記録(個人情報)を公開しているなんてすごいことだと思う。ブログを読ませていただいて、重症喘息の子供時代、海外生活、酸素、車椅子での学生時代、すざましいとかいえない人生にもかかわらず、まったく落ち込まず、前に向いていく、そのハンデキャップをものともせず、東大理三、医学部にはいるとは、世の中にはすごい人がいるものだ。さらに、学生時代、そして研修医時代と東大総長表彰、世界最大の放射線学会、北米放射線学会での最高賞 Magna Cum Laude を受賞するなんて尋常ではない先生だ。これからの日本の放射線科を担う有望な若手の先生と思う。
ブログのタイトルのpassion(以前この名前の映画がありました。映画の主人公と重なるような・・)としか言えない人生と、もう一つの passion 家族、子供、放射線 医学へのpassionが人生を支えているのだと、すごい人です。
とある日、今では喘息も克服し絶好調、元気だったのが、CTで自分で自分の肺癌を診断する。それまで日々の診療で見てきた典型的な肺がんのCTを見たときの気持ちは・・・、私も同じことを経験しましたのでよくわかります。これまでのこと、今後のことが走馬灯のように目に浮かびます。
ただ、放射線科医はそのあとどうすればベストなのかよく知っている。前田先生の場合は生検なしで、たぶん術中迅速組織検査でがんの確定を、私はその週のうちにFDG-PET検査、MRCP, Eでの穿刺を行い、黒白をはっきりさせました。私の場合は幸いなことに悪性細胞はでませんでした。信頼できる医者を選ぶことも各科の医師の診療内容をよく知っている放射線科医ならではかもしれません。
放射線診断医でさびしく思うのは、たとえ友人家族の病気を発見しても、治療技術がないことである。自分で自信をもって最高の治療を行うことができればなんと医者らしいかと思う。診断はできるが、治療ができないのは寂しい。ただ、自信をもって紹介できる医者、紹介できない医者を選ぶことができる。
(その2)
「ラジエーションハウス」について解説されています。
「普段は裏方で全く目立たない放射線科の仕事が知られるようになることを期待しています。」と放映に肯定的なご意見です。私も同感です。私が放射線科医になった当時、このような放射線医、技師が主人公になるようなドラマができるとは思いもよらなかったことです。ドラマの内容については、ドラマなので実際の診療現場とはかなり違いますが(放射線技師が診断をする、してもよいと一般の人にカン違いされるては困るのですが、主人公は医師の資格をもっている放射線技師だとういうことを理解してもらう必要があります)、高濃度乳腺の話やIVR(診断技術の治療的応用)などなかなか難しい話がでてきます。視聴率が伸びてほしいと思っています。